世の中解せないことばかり  ・・・月刊「極楽Windows」(ソフトバンク)
                          創刊号(1996年10月号)より連載
                          
          (C)雅 孝司1996 禁・無断転載   歓迎・事前相談転載
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第1回 便利な機能にはトゲがある...発信者表示機能


 エアコンがついて夏でも涼しくなった、レンジを買っていつでも温かいものを食べられ

るようになった。

 電話関係だけでも、留守番電話・ファクシミリ・携帯電話・PHS……世の中はどんど

ん便利に楽しくなっていく。う〜ん、いい時代になったもんだ。

 ところが、人間の“欲”にはかぎりがない。「こんなモノ、こんなサービスあったらい

いな−−と思うものある?」ときくと、いろいろ出てくる。

 でも、中には、「えーっ、それってホントに便利?」と首をかしげるようなものも。

 具体的に話す方がいいだろう。

 かなり以前から、とくに1人住いの女性などから、「電話にこんな機能がほしい」と言

われ続けていて、97年1月より実用化(一部地域で試験提供開始)されるサービスがあ

る。それはNTTの「発信電話番号表示サービス」

 電話がかかってきたとき、発信した電話器の電話番号を、受信する電話器の液晶ディス

プレイなどに表示する機能だ。つまり「だれがかけてきたのか、電話に出る前に(ある程

度)わかる機能」だ。

 ここまで読んだだけで「へえ、そんなことができるようになるの? じゃさっそく申込

もう」と思った読者が何十万人もいるだろう。(あれれ、本誌発行部数より多いんじゃな

いかい?)

 このサービスを使えば、いたずら電話・無言電話・わいせつ電話などから開放される、

別れたいと思っているのにしつこい男からの電話にも出なくていい−−そういう“バラ色

の夢”を持った女性読者も(男性読者も)、少なくないだろう。

 でも、月並なたとえだが、きれいなバラにはトゲがある……

 世の中には、「自分だけが使うのならとても便利。だけど他人が使えば(自分にとって)

むしろ不便・迷惑」というものがある。「発信電話番号表示サービス」はその典型だ。

 このサービスは、一言でいうと「電話の相手を選ぶ機能」である。これに熱い期待を寄

せる人がたいへん多いのだが、みんな「自分が相手を選ぶ」ことしか考えていない。「自

分も、相手から選ばれる」ということに、ちっとも気がついていない。

 そう、このサービスが普及すれば、あなたが電話をかけるたび、あなたの番号が先方に

表示される。相手はそれを見て何%か何10%かは、「あ、あいつからか、じゃ出るのよ

そう」ってことになるだろう。そうやって選別されることまで、あなたは考えただろうか?

 というと、こういう反論があるかもしれない。

「ぼくは(私は)いたずら電話・無言電話・わいせつ電話など一切しない。だから選別さ

れることはない」

 そうかな? 友達に金や物を貸して、なかなか返してくれないので、催促したことはな

いだろうか。消極的な相手を、何度もデイトに誘ったことはないだろうか。相手がとりこ

み中なのに、長電話をしてしまったことはないだろうか。

 かける側にとって善意・好意・正当な電話であっても、受ける側からは出たくないケー

スは意外にたくさんあるのだ。

 しかも、さらなる問題は、選別した/されたという事実が、双方に(たぶん)わかるこ

とだ。

「あたし、きのう自分の部屋からあなたに電話したのよ。あたしの番号が表示されて、あ

たしからだってことはわかったはずよ。なのに、あなた、どうして出なかったの」

てな展開になれば、便利なはずのサービスが裏目に出て、かえってトラブルの種が増える

だけ!?

「人生、知らない方が幸せってこともある」というマンネリせりふをここで使うのもなん

だが、「だれからの電話かわからない方が幸せ」って場合は、けっこうありそうな気がす

る。

 くりかえしになるけど、このサービス=システムを開発した関係者たち、そして使いた

がっているユーザーたち、のべ何人いるかしらないが、「自分が選ばれる立場にもなる」

ってことにだれも気がつかない/気がついても言い出さない(ようにぼくには見える)の

は、じつに不思議だ。

 このサービスは、一言でいうと「電話の相手を選ぶ機能」だけど、みんな「私にも選ぶ

権利があります」しか考えていない。そりゃあ、ちょっとムシがいいんじゃないの? 逆

の立場にもなるんだぜ。つまりきみがどれぐらいきらわれているかのバロメーターになる

んだ。



第2回 キーボードの悲劇、いや喜劇...披露宴は大騒ぎ



第3回 こんな名前に誰がした...東大の偏差値を下げる法




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