1億ドルの記憶
覚悟していたことではあるが、貨客船のだれも、きみが海に
落ちたことに気づかなかった。きみの船は、何事もなかったよ
うに、朝日の波間に消えていく。
だが、きみにはまだツキがあった。
貨客船が東の海に見えなくなるのと入れ替わるように、西の
海に貨物船が現われた。九龍のオーシャンターミナル埠頭で、
貨客船の先につけていた船だ。
乗組員がきみに気づき、救いあげてくれた。おまけに、その
船も構浜行きだった。きみはそのまま、日本に連れていっても
らうことになった。
とうぜん船長・船員から、どういう事情かという質問が殺到
した。しかし、事実を話しても信じてもらえそうにないので、
たんに「申板から海を見ていて足をすべらせた!とだけ言い、
その後もそれで通した。
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