1億ドルの記憶
覚悟していたことではあるが、貨客船のだれも、きみが海に
落ちたことに気づかなかった。きみの船は、何事もなかったよ
うに、朝日の波間に消えていく。
しかも、きみにはツキがなかった。きみの船が東の海に消え
て数時問、他の船は現われない。〈ほとんど体を動かさずに水
に浮く〉という技術を持ったきみだが、疲れと渇きは少しずつ
確実に進み、いつしか意識も遠ざかる。
きみの脳裏に一瞬鈴昔の笑顔が浮かんだ。
「鈴昔……」
それがきみの最後のつぶやきだった。
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