1億ドルの記憶
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    1億ドルの記憶

  備え付けの便箋には、ホテルの電話番号が印刷されていた。きみは、それを見ながらつ

づけた。

「これは冗談でもいたずらでもありません。じつは私、記憶を失なってしまったのです。

ポケットにあなたの名刺が入っていたので、お電話しています。私がだれだかご存じでし

たら、〇〇ホテルまでご連絡ください。電話番号は03−945−××××です」

  きみは受話器を置いた。

  数分後、その電話のベルが鳴った。受話器をとると、ホテルの交換からだ。

「市川さんからお電話です」

  切り換えの音。市川の声。

「もしもし、市川昇です。さきほどメッセージいただいた方ですね?」

「はい、いまお戻りですか」

「いや、まだ出先ですが、うちの留守番電話はポケットベルと連動しているんです。かか

ってきたことが外でもすぐに分かり、録音内容を出先から聞けます」

  そういうメカを期待していたわけではないが、テープだからといって切らず、きちんと

こちらの連絡先まで吹き込んだのは、正解だった。

「それで」と市川はつづける。「私、そちらのホテルから、あまり遠くない所にいるんで

す。30分後ぐらいにロビーでお目にかかれませんか」

  もちろん、異論はない。きみとしては願ったりかなったりである。



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