1億ドルの記憶
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1億ドルの記憶
30分後、きみはホテルのロビーにいた。ソファにかけて、玄関の方をしきりに見る。
といっても、相手=市川昇の顔はわからないのだが。電話では、白と緑のポロシャツ姿だ
と言っていた。
数分して、そのスタイルの男が汗をふきながらロビーに入ってきた。すぐにきみに気が
つく。
「やっぱりそうだ、鷹見さん」
「鷹見? それが僕の名前?」ときみ。
「ええ。でも、話の前に、ちょっと冷たいものを飲ませてください」
彼は炎天下を走ってきたらしい。きみはすぐに話を聞きたかったが、とりあえずホテル
のティールームで1つのテーブルについた。
彼は、きみと同じぐらいの世代の青年である。ポロシャツなど着ているところをみると、
会社員ではなさそうだ。お冷やを2杯おかわりして、ようやく話し始めた。
「電話の声ですぐピンときました、鷹見さんだと。以前合同インタビューで一度お会いし
てるんですが……お忘れなんですよね。事態が事態ですからあらためて名のります。私は、
科学雑誌『ガウス』のフリー記者、市川昇です。ほんとに何も覚えてないんですか」
「ええ」
彼はふ〜っとため息をついた。
「じゃあ、結論からいいましょう。あなたの名前は鷹見秀彰、職業は東西大学の助手です
が、別のことで、ものすごい有名人なんですよ」
「というと?」
「あなたは、日本人初の宇宙飛行士なんです」
市川はことばを切ってきみの反応を見た。が、きみは、きょとんとしているだけだった。
彼はつづけた。
「正確には、〈日本人初の宇宙飛行士〉の候補3人のうちの1人です」
「すると、ぼくはスペースシャトルにでも乗ったのか?」
「いや、その可能性があるということです。候補3人から最終的に1人が選ばれ、来年――
198X年――4月打ち上げのスペースシャトルに乗り込むんです」
「ふーん」
きみは、それが自分の話だという気が、まだしなかった。
「これもきっとお忘れでしょうが、私は鷹見さんに単独インタビューを申し込んでいたん
です。ところが、いったん約束したのに、急に海外の学会へ向かったとかで、キャンセル
されてしまいました」
「……」
「学会へ出たのはご記憶ですか」
覚えていなかった。きみは逆にきいた。
「学会と言ったのは、ぼく自身?」
「いいえ、研究室の方です」
きみが行方不明になったので、学会に出たことにしたのではないか。根拠はないが、そ
んな気がした。
「覚えてないこととはいえ、すっぽかしたのは申しわけない。いずれ、記憶が完全に戻っ
たら、あらためてインタビューに応じますので、きょうはぼくのことを教えてください」
「いいですとも」
「ぼくの住所・電話番号などは分かりますか」
「書きましょう」
市川は、きみの住所・電話番号を、手帳から自分の名刺の裏に転記して、きみに渡した。
きみたちはさらに話をしたが、彼はきみのことをそんなによく知っているわけではなか
った。これ以上の有力情報は得られなかった。
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