1億ドルの記憶
ホテルの売店で、きみは5つほどのスポーツ紙を買い、ロビーでざっと目を通す。スポ
ーツ記事・芸能記事には、記憶を刺激し、甦らせるような記事はなかった。
だが、最近のスポーツ紙は、一般紙の社会面的記事もけっこう載せる。その中に「淀田
商事事件、関係者はいま」という見出しがあった。
わずかに戻った記憶では、淀田商事は金・ダイアモンドを老人に売りつけ、実際には預
かり証しか渡さず、悪徳商法で巨大な暴利をあげた。しかし2年前、ようやく批判が強ま
り、官憲の手が入るとともに倒産した。
それだけでも十分話題になる事件だが、ワンマン会長が白昼斬り殺されるにおよんで、
当時の大ニュースとなった。
とはいえ、〈自分がこの事件の被害者あるいは加害者あるいは関係者〉という記憶があ
るのではない。そういう形ではなく、何か別の形で――いわば“ゆきずり”で――かかわ
ったような気がするのだ。
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