1億ドルの記憶
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    1億ドルの記憶

 そのとき突然、失われた記憶のジグソーの最後の1片が甦っ

た。

 なんということだ。いちぱんかんじんなことを思い出してい

なかった。気がついていなかった。

 それは、安西との出会いの、最後のひとこまである。彼は、

香港のレストランの片隅でひときわ声をひそめ、他人の視線が

ないことを確かめて、きみに1つの鍵を渡した。

「これは?」

「さっきの大香港銀行貸し金庫の鍵だ。これの複製をつくって、

きみが持っていてほしい:.j

「……何のために」

「淀田商事の隠し資産を俺がおさえていることを、ごく一部の

者が感づいている。とうぜん金を狙い、俺を狙ってくる。俺に

万一のことがあったら、きみが貸し金庫の中身を受け取ってほ

しい」

「ぼくは通訳しただけですよ。そんなに信用されても、かえっ

て……」

「かまわん。中身をきみのものにしてもいい。あいつらに渡る

よりは」

「じゃあ、とりあえず預かりますが、鍵の複製はどこでやるん

ですか」

「蛇の道はヘビさ。あてがある。ことばはできなくても、そう

いうアングラ職人は、きみよりよく知っている」

 きみは安西に連れられ、レストランから少し歩き、路地に入

り、細い階段を降りた。そこは、いかにもうさんくさそうな所

で、しいていえば昔の靴屋の雰囲気だった。初老の職人がおり、

安西が金と鍵を渡すと、さっそく複製をつくった。

 おまけに、きみの靴を脱がせ、かかとに何やら紬工する。

「どうするんですか」と安西に聞くと

「靴に秘密の隙間をつくって、鍵をかかとに隠すんだ」

 きみはこのいきさつをやっと思い出した。しかしあの靴は、

目黒のマンションに置いてきてしまった。

 きみは、きゅうきょ日本に戻ることにした。



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