1億ドルの記憶
(C)雅 孝司1998 禁・無断転載 歓迎・事前相談転載
ご意見・ご希望・お問い合せは pga00132@niftyserve.or.jp
インタラクティブノベル(R)No.3
1億ドルの記憶
そのとき突然、失われた記憶のジグソーの最後の1片が甦っ
た。
なんということだ。いちぱんかんじんなことを思い出してい
なかった。気がついていなかった。
それは、安西との出会いの、最後のひとこまである。彼は、
香港のレストランの片隅でひときわ声をひそめ、他人の視線が
ないことを確かめて、きみに1つの鍵を渡した。
「これは?」
「さっきの大香港銀行貸し金庫の鍵だ。これの複製をつくって、
きみが持っていてほしい:.j
「……何のために」
「淀田商事の隠し資産を俺がおさえていることを、ごく一部の
者が感づいている。とうぜん金を狙い、俺を狙ってくる。俺に
万一のことがあったら、きみが貸し金庫の中身を受け取ってほ
しい」
「ぼくは通訳しただけですよ。そんなに信用されても、かえっ
て……」
「かまわん。中身をきみのものにしてもいい。あいつらに渡る
よりは」
「じゃあ、とりあえず預かりますが、鍵の複製はどこでやるん
ですか」
「蛇の道はヘビさ。あてがある。ことばはできなくても、そう
いうアングラ職人は、きみよりよく知っている」
きみは安西に連れられ、レストランから少し歩き、路地に入
り、細い階段を降りた。そこは、いかにもうさんくさそうな所
で、しいていえば昔の靴屋の雰囲気だった。初老の職人がおり、
安西が金と鍵を渡すと、さっそく複製をつくった。
おまけに、きみの靴を脱がせ、かかとに何やら紬工する。
「どうするんですか」と安西に聞くと
「靴に秘密の隙間をつくって、鍵をかかとに隠すんだ」
きみはこのいきさつをやっと思い出した。しかしあの靴は、
目黒のマンションに置いてきてしまった。
きみは、きゅうきょ日本に戻ることにした。
次のシーン