1億ドルの記憶
老人は、人を監禁するような凶悪な連中の仲間には見えない。しかしそれは“外界”の
常識だ。この建物の中、この異常な環境では油断しない方がいいだろう。
きみはベッドから1mほど離れて立ち、手を触れず、声だけで彼を起こすことにした。
「もしもし……起きてください……聞こえませんか」
老人の寝息のリズムが少し乱れた。だが、まだ目を覚ましはしない。きみはもう一度同
じことばをくり返した。すると彼の目がうすくあいた。上を向いていた顔を、声の方に傾
ける。きみの存在にすぐ気がついたようだ。
彼はまず警戒の表情を、やがてしわだらけの口元にうすら笑いを浮かべた。右手をのろ
のろとふとんから出し、きみを手招きする。何かつぶやいているようだが、声が小さくて
聞こえない。
老人に近づく
あくまでも距離を保つ